THE BLOG 月光値千金

月見坂物語
To The South
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To The South

2010/08/20/Fri

06 やっぱり、俺のケツが!

 頭の上には爽やかな青空、だが爽やかな目覚めとは言い難い目覚め。やけに空の青さが目にしみての目覚め...バーボンの飲み過ぎ?確かなのは、今までに出会った事のないほどの爽やかな空気に満ちた朝だという事。それにしても頭が痺れる...肺に吸い込まれる空気が爽やか過ぎなのか?
「ミゲル、昨日はよく眠れたか?」
「目覚めは最悪だ」
「それは多分、昨日のマッシュルーム風味のチキンのせいだろう」
「やっぱり、アンタか」
「何か見えたか?」
「昨日のコヨーテが、俺のケツに噛みつこうとしやがった」まあ、何かのサプライズと思えば...これも旅の余興と思っても、痺れた頭に血が上る。「ショットガンでヤツをブチ抜く!」
「ミゲル、コーヒーだ。まあ、落ちつけよ」
 レイは早く起きたのか、すでにコーヒーを沸かしていた。確かに昨夜の悪夢を消し去るには、まぶし過ぎる朝日よりもコーヒーが最適なのだが...、これ以上のサプライズは。
「マッシュルーム入りなら遠慮する」
「心配するな。朝のコーヒーは、サボテンフレーバーに決めている」
「ブチ殺す...」俺は思わず唸った。
「そう怒るな、ミゲル。朝のサボテンフレーバーは単なる理想だ。まあ理想は語ってこそ、理想としての価値がある。そう思わないか?」
「レイ、何が理想だ!誰かの理想のお陰で俺は、拳銃強盗の片棒は担がされるわ、コヨーテにケツは狙われるわ、最悪から逃れようとシアトルを出たのに、シアトル以上に最悪だ」
「現実から目を逸らせば、そこには最悪―――そんな気がするけど」
「現実を直視するから、俺はロスに行く」
「もしアンタが本当に現実を直視するなら、行き先はメキシコだろう」
 レイに渡されたコーヒーは、普通にコーヒーだった。百パーセント純粋な、砂糖さえ入っていないコーヒーだった。
「砂糖は?」
「コーヒーという現実は、砂糖が入ってこその現実―――違うか?」
「意味が分からん」
「それが、コヨーテからケツを守る最良の方法なのさ」
「なら、もし俺がコーヒーに砂糖とミルクを入れたら?」
「もし、アンタが何時も砂糖とミルクを入れていたら、俺のモナコには乗っていなかった。多分それ以前に、アンタはシアトルを出ようとは思わなかったはずだ」
 俺はコーヒーに砂糖を入れ、飲んだ。美味かった。カフェインが身体に滲みていく―――昨夜の寝汗はすでに過去の記憶。
「今はミルク嫌いを後悔してるぜ。コーヒーにミルクと砂糖を入れてたらシアトルを出る必要も無かったし、コヨーテにケツを狙われる事も無かった。そうなんだろう、レイ」
「そこにコヨーテがいるから、聞いてみな」
「それはどうかな」
 後ろからの声に、俺は振り返った。コヨーテと目が合った―――俺はマジに焦った。
「そんなに驚かなくてもいいだろう、ミゲル。ヨーロッパじゃトカゲが喋るって話だ。そっちの方が、よっぽどの驚きだ。トカゲだぜ、あのトカゲが喋るんだぜ。考えてみろ。ディナーで食ったトカゲが、夜中に腹の中で喋り出すんだぜ。うるさくて眠れやしねえ...、えっ、何だ? ミゲル、何をそんなに驚いている?」
 いきなりコヨーテに名前を呼ばれて、何で驚いているんだと聞かれても・・・何をどう答えていいのやら。だいたい今まで、コヨーテに面と向かってそんな事を聞かれた事など無い―――取りあえずは自己紹介? だがすでに相手は、何故か俺の名前を知っている。思わず出た言葉が、「何処かでお会いしましたっけ?」
「直視すべき現実に直面した時、その事実を受け入れられずにうろたえる。まあ、よくある事だ。ところで、レイがコーヒーに砂糖を入れればコヨーテからケツを守れると言ってたが、あれは嘘だ。ただの迷信だ。コヨーテの俺が言ってるんだ、俺を信じろ。それともう一つ。昨日の事をキノコのせいだと思っていると、コヨーテがケツに噛みつくぜ。気を付けな、ミゲル」
 昨夜のコヨーテ、悪夢のコヨーテが再び目の前に―――えっ...、俺のケツが!

〈INDOプロフィール〉 1954年7月、北海道生まれ。東京のデザイン専門学校を卒業後、石川県金沢でバンド活動。1980年、25歳で日本を出国、ギリシャを拠点にテキヤなどで資金を作りながらアフリカ、北米、中米の長期旅行。1985年、再びギリシャに戻り不良外人にしてストリートミュージシャン、フルートを吹きながら西ヨーロッパを回る。1993年、拠点をオランダに移し、ストリートミュージシャンとして生活しながら短編小説を書き始める。1997年、42歳で日本に帰国し十年ほど鉄工所勤務。その後、小説に集中しようと退職。

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